研究概要 |
本研究の目的は二次木部細胞壁形成における細胞骨格のはたらきの解明であり、本年度はin vitroで二次木部の管状要素の特徴をもつ細胞へと分化させる新たなモデル実験系の開発を前年度に引き続き行った。これまでの採用者の研究では、交雑ポプラ(Populus sieboldii × P. grandidentata)培養細胞を低濃度のブラシノライド添加培地へと移植することで、誘導開始から12日目より管状要素様の細胞が観察され始めることがこれまで明らかにされていたが、管状要素に分化する細胞の割合は従来の誘導系と比較して高くはなく、解析の効率を高めるために更なる誘導率の向上が望まれた。そこで、前年度までの誘導条件に細胞の乾燥処理を組み合わせることで管状要素様細胞の誘導率の向上を図った。乾燥処理はクリーンベンチ内においてプラスチックシャーレ上に継代培養時期のカルスを移した後、それぞれ0,30,90,120,180,480分ずつ気乾することで行った。乾燥処理期間の温度は20±1℃、湿度は25±3%であった。乾燥処理後、カルスを継代培地と同組成の培地、植物成長調節物質を除いた培地、およびブラシノライドを1μM添加した培地の培地に移した。乾燥処理期間が長くなるにつれ細胞の色調は黄白色から白色に変化し、乾燥処理を180分以上行った条件では顕著なカルスの収縮が認められた。実験開始の時点では、すべての条件で培養細胞中に管状要素は観察されなかった。実験開始28日経過時点での観察では一部の条件で管状要素が観察された。誘導培地にブラシノライドを1μM添加した培地を用いた条件でのみ、乾燥処理によって有為に管状要素面積率の向上が認められた。最も高い管状要素面積率の値を示したのは乾燥処理を90分間行った後ブラシノライドを1μM添加した培地で行う条件であり(27.2±10.7%)、他の条件に対して有為に誘導率が高かった。以上の事から、乾燥処理によって更なる分化率の向上が行えることが明らかになった。
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