研究概要 |
本研究はヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)のジテルペン型生長制御物質の生合成経路とその生理機能解明を目的としている。ヒメツリガネゴケは、顕花植物のもつジテルペン型植物ホルモンであるジベレリン類(GA)を生合成していない。しかしゲノムデータベースからGA生合成関連遺伝子ホモログが単離・機能同定され、生合成初期のGGDPからent-カウレンへの変換反応は多機能型環化酵素(PpCPS/KS)が触媒していること、PpCPS/KS欠損変異体(A74株)では原糸体成長に異常が見られること、ent-カウレン酸まで顕花植物と同様な経路を持つことなどが報告されている。これらのことを総合すると、ent-カウレン酸以降コケ特有な酵素・経路によりジテルペン型新奇生長制御物質を生合成していることが強く示唆されている。本年度はジテルペン型新奇生長制御物質生合成に関わる酵素遺伝子の発現調節機構と光形態形成に関して研究を進めた。赤色光、青色光下でのヒメツリガネゴケの生育に関する報告はあるが、ジテルペン型新奇生長制御物質が関与する光形態形成の制御機構に関する知見は無い。そこで、ヒメツリガネゴケ野生株とA74株の原糸体を各種光条件で培養を行い表現型と発現量を解析した。その結果、青色光を照射した場合は野生株で観察される原糸体の忌避応答がA74株では確認されなかった。この忌避応答はent-カウレン酸の投与により野生株と同様の応答に回復した。さらに、qRT-PCRを用いてWTにおけるPpCPS/KSの発現解析を行ったところ、PpCPS/KSの発現量は青色光処理で顕著に増加した。これらの結果は、ヒメツリガネゴケにおいてGA様新奇成長制御物質がent-カウレン合成の段階で光による制御を受け、特に青色光下での忌避反応に関与していることを示唆している。以上の結果をまとめ、植物科学系国際誌のPlantaに投稿し, 掲載可となった。
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