研究実績の概要 |
(a)反芳香族16πポルフィリンの単離と性質解明 18π電子系のポルフィリンは芳香族性を示す一方、二電子酸化された16πポルフィリンは反芳香族性を示すため、その単離例は限られている。当研究室では、非常に大きな立体歪みにより安定化した16πポルフィリン無金属体を初めて単離し、構造解析と性質解明に成功した。本研究では、立体的な固定化により完全平面な16πポルフィリンが実現できると考え、その単離と反芳香族性評価を目指した。8段階全収率3%で縮環前のモノ-アントラセン導入体の合成に成功し、続く低温での酸化的カップリング反応によって、目的の18π前駆体の合成にも成功した。 (b)新規なカルベン配位子の開発と遷移金属触媒への応用 カルベンは二価の中性炭素化学種であり、不安定中間体として知られている。本研究では、環状芳香族カルベンを基盤骨格として隣接する2つの炭素原子を有するカルベンの単離及び性質解明を目的とした。環状芳香族カルベンは架橋原子Xによって基底状態が変化するという特異な性質を有するものの短寿命種であるため、基盤骨格への遠隔窒素原子の導入により安定化を試みた。本年度は、1,8位に置換基を導入した系での光分解反応及び金属錯体への応用、C4クムレン合成への応用、三座配位子系への展開の三つの指針で研究を進めた。ジアゾ化合物の光分解反応では、低温での遊離のカルベンの発生を観測し、過渡吸収スペクトル測定による寿命観測にも成功した。さらに、1,8位にフェニル基を有する系では、単離例の希少な14電子Pd錯体の単離に成功した。また、1,8位にフェニル基を有する骨格では、C4クムレンの単離にも成功し、そのラジカルカチオン種が空気中でも安定であることを示した。三座配位子系では、1,8位へのリン原子の導入に成功し、金属錯体への応用を可能にした。
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