研究課題
特別研究員奨励費
トンネル磁気抵抗(TMR)素子は強磁性層/絶縁層/強磁性層の三層構造からなる素子である。TMR素子の抵抗は両側の強磁性層の磁化の相対的な配向に依存して大きく変化する。この電子スピンに依存した電気伝導現象はスピントロニクス分野において応用及び基礎物理の観点から盛んに研究されている。私はこのスピン依存伝導現象の詳細解明を目指して電流ゆらぎ測定を行った。具体的には絶縁層の膜厚を系統的に変化させた試料を用意し、独自に立ち上げた測定系において低温環境下で電流ゆらぎ測定を行った。その結果、膜圧の変化に伴う電子の伝導現象の変化を定量的に評価することに成功した。この結果はTMR素子におけるスピン依存伝送現象の理解を深め、今後の研究に大きく貢献するものである。また、電流ゆらぎに加えて、TMR素子の抵抗ゆらぎについても研究を行った。抵抗ゆらぎは素子を応用する上で信号雑音比を下げる要因となる。私は高品質のTMR素子で系統的に抵抗ゆらぎを測定することで、抵抗ゆらぎが磁化のゆらぎに起因すること、また、そのメカニズムを明らかにした。量子的な電子伝導過程を実時間で観測することを目標として、測定系の立ち上げを行った。希釈冷凍機中で高周波の電気信号を観測することが必要であるため、まずは試料と高周波の伝送ラインをつなぐための試料ホルダーを作製した。作製した試料ホルダーの性能はネットワークアナライザを用いて評価し、十分な性能を有することを確認した。さらに、高感度の測定を行う上で必須となる単電子トランジスターの作製を行い、希釈冷凍機を用いてクーロン振動などの基本的な動作確認を行った。希釈冷凍機中における量子伝導過程の実時間測定は世界的に見ても例が少なく、挑戦的な試みである。
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Physical Review B
巻: 86 号: 22 ページ: 224423-224423
10.1103/physrevb.86.224423