研究概要 |
本研究の目的は、農業生産活動と陸域の水循環との関わりを解析可能な農業水資源モデルを構築する事である. 開発目標である農業水資源モデルについては, 既に昨年度までにその枠組みの開発を終えており, 今年度に論文として掲載された. 本年度は, 昨年度までの活動を踏まえた上で, モデル自体の改良や, 入カデータの高精度化により, モデル出力をより現実に擦り合わせるための作業に重点を置いて研究を行った. 本年度の主な研究成果は, 以下の通りである. 1. 衛星観測植生指標を用いた全球農事暦推定アルゴリズムの高精度化 陸上の水循環, 及び, 作物モデルの開発・検証・適用に際して, 農事暦情報が必要となる. 本研究では, 近年利用が可能になってきた全球作物分布情報を利用することで, 衛星観測植生指標NDVIを用いた全球農事暦推定アルゴリズムを高精度化した. 特に作物の播種日は, 人為的な影響を強く受けるため気象・気候条件により決定する事が困難であった. 本研究で行ったアルゴリズムの改良により, 各国の作物統計情報と比較して, 作成される農事暦の再現性が向上する事を示した. 2. タイ・チャオプラヤ川対象としたケーススタディ : 再現実験と将来の変化予測 水関連災害の多いタイ・チャオプラヤ川におけるケーススタディを行った. 再現実験では, モデルが対象流域の年流出量や流出量の季節変化を再現しうる事を示すと共に, 同流域で雨季中盤の大雨が, 雨季後期の大出水につながるという知見を得た. 将来の気候条件を用いた将来予測計算では, GCM (Global Climate Model)や温室効果ガスの排出シナリオに関する不確実性を考慮した, 将来の水資源変化予測を行った. 解析では, GCMの違いによる不確実性を低減する為に, 複数のGCM出力を用いた結果, 多くのモデル出力が将来にかけての大幅な流量増加を支持することを示した. 3. 乾燥域における水収支解析精度の高精度化への取り組み 現在の全球水文モデルは, 乾燥域の河川で流量過大となる問題を抱えている. その理由は, 乾燥域における水文観測密度が低い事と, 現状の水文モデルが乾燥域の陸面プロセスを十分にモデル化できていないことが原因である. 地上観測情報の不十分さや, 乾燥域のモデルパラメータのキャリブレーションは, 衛星観測情報を用いた同化やフィルタリングにより改善される可能性がある. 本研究では, 地表面水文量の一つである土壌水分量に着目し, JAXAの提供するAMSR-E土壌水分量の利用を開始した. AMSR-E土壌水分に関しては, その利用可能状況を判断した上で, モデルの同化システムに組み込むことが今後の課題として残された.
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