研究概要 |
2012年と2013年にグリーンランド北西部, および南西部沿岸域に位置する複数の氷河上で採取されたクリオコナイト(鉱物粒子と主に氷河上微生物で構成される有機物の集合体)に含まれるSr(ストロンチウム)とNd(ネオジム)の同位体比を分析した結果, 同位体比は氷河上の裸氷域と積雪域とで大きく異なる値を示した. これは, 氷河上に供給される鉱物粒子の供給源が氷河の積雪域と裸氷域とで異なることを示唆している. 積雪域の同位体はその年に氷河上に飛来した鉱物粒子の起源の値を反映していると考えられることから, この同位体比の違いは2012年に氷帽上に飛来した鉱物粒子の供給源の値を反映していると考えられる. また, 鉱物成分の同位体比は氷河の地理的位置によっても大きく異なり, その値はそれぞれの氷河周辺の堆積するモレーンや土壌に比較的近い値を示した. また, 先行研究において供給の可能性が示唆されているアジア乾燥域の砂漠とは著しく異なる低いSr比を示した. このことから, 各氷河のクリオコナイトに含まれるケイ酸塩鉱物は, 遠方の砂漠から供給された風成塵ではなく, 主にそれぞれの氷河周辺から供給されたものであることがわかった. 有機物成分のSr同位体比も地域によって大きく異なる値を示した. 各鉱物成分の値と比較した結果, ほとんどの氷河の有機物の値が塩類鉱物と炭酸塩鉱物に近い低い値を取ったのに対し, 北部の2つの氷河では塩類・炭酸塩とリン酸塩鉱物との中間の値を示した. この同位体比の違いは, 各氷河の雪氷微生物群集によるCa源の違いについて反映していると考えられることから, グリーンランドの氷河では微生物は主に塩類鉱物と炭酸塩鉱物に由来するCaを吸収しているのに対し, 北部の氷河ではそれに加えてさらにリン酸塩鉱物に由来するCaも利用していると考えられる. 本研究の成果によって, まだその詳細がほとんどわかっていない氷河上微生物の生態や, 微生物の活動が氷河変動に与える影響への理解が進むと考えられ, その社会的意義は大きい.
|