研究概要 |
磁壁電流駆動現象は磁区と磁区との遷移領域であるナノスケールの磁壁を電流で駆動させる現象である。この現象はその物理機構だけでなく、次世代の不揮発性メモリヘの応用の観点から世界中で盛んに研究されている。まず、その物理機構は伝導電子から磁壁内部の局在スピンヘのスピン角運動量移行によって説明され、磁壁が電流と逆向きに移動する[断熱トルクの理論]。我々は上下対称構造を有するPt/[Co/Ni]/Ptナノ細線における磁壁電流駆動は断熱トルクによって説明できると実験的に証明してきた[T. Koyama, K. Ueda et al, Nat. maters (2011)]。さらに、このCo/Ni系を用いて、材料定数で重要なスピン分極率の評価法を確立することに成功した[K. Ueda et al., Appl. Phys. Lett. (2012)]。今年度は、磁化率やキュリー温度の異なるCo/Niを用意してスピン分極率の温度依存を調査し、国際会議なので発表した。 近年、磁壁が断熱トルクの理論で説明できない磁壁が電流方向に移動することが報告されている。材料の特徴として磁性層が薄く、界面の非対称性があげられる。そこで、我々は非対称構造を有するMgO/[Co/Ni]/Ptナノ細線を用いて磁壁が電流方向に移動する機構を明らかにした。磁壁電流駆動の面内磁場依存性結果から、その機構はスピンホール効果による磁壁駆動を支持するものとなった。さらに、磁性膜厚依存性を調べた結果、磁性層が厚い領域で磁壁は従来の断熱トルクによって電流と逆向きに移動していることが分かった。このように我々は、非対称構造を有するMgo/[Co/Ni]/Ptナノ細線における磁壁電流駆動の機構解明に成功した。現在、論文にまとめ投稿中である。
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