研究概要 |
G-ブラウン運動は, 分散に不確定性をもつブラウン運動の概念を定式化した概念である. S. Peng(2007, 2008)はG-ブラウン運動を実現する劣線形期待値として, G-期待値を構築した. 本研究の目的は, 非線形熱方程式の粘性解を, G-ブラウン運動を用いた確率論的手法によって解析し, 最終的には非線形偏微分方程式論においてまだ知られていない粘性解の振る舞いを導くことである. そのための基礎研究として, 本年度は通常の確率解析において知られている結果が, G-ブラウン運動の場合にも成り立つかを調べた. 具体的には以下の研究を行った. 私は昨年度までに, G-ブラウン運動に対するギルサノフの公式を得た. これは, G-期待値に重みを付けることによって, ドリフト付きG-ブラウン運動をG-ブラウン運動とするような劣線形期待値を得るための変換公式である. またこの他に, G-ブラウン運動の汎関数に対する変分表現も得, その応用として, G-ブラウン運動とG-ブラウン運動の2次変分の同時法則に対する大偏差原理を導出することができることも分かった. 通常の確率解析においてはギルサノフの公式の応用として, importance samplingがある. importance samplingとは, 分散を最小化するような測度変換の下でサンプリングを行うことで, 期待値評価の精度を上げる手法である. 特にギルサノフ変換による測度変換のなかで分散を最小化するという問題に対し, Guasoni-Robertson(2008)は大偏差原理の理論を用いることで1つの答えを導いた. 本研究では, 彼らの結果をG-期待値の場合へ拡張した(大阪大学の関根順教授・加藤恭助教との共同研究に基づく). この結果により, 分散に不確定性のある状況下でのimportance samplingが可能となった. これによりG-期待値のシミュレーションの理論のさらなる発展が期待される.
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