研究実績の概要 |
本研究では, これまで研究事例が少なかった土壌中でのラドン散逸現象や, 散逸後のラドンの環境挙動について現地測定ならびに実験による定量化を試みた。また, その好適なフィールドとして, 比較的高い自然放射線レベルを呈する沖縄県を選定した。さらに, 実験によるラドン散逸係数の評価, 土壌物理パラメータの測定, 鍾乳洞における滴下水中ラドン濃度の測定を行い, これらのデータを用いて土壌からの散逸ラドンの地下水への移行量を推定した。沖縄島に分布する土壌のラドン散逸係数を実験的手法によって評価した結果,乾燥および湿潤状態におけるラドン散逸係数の算術平均値は, それぞれ0.19および0.29となった。実験に使用した土壌は, 沖縄県における伝統的な区分に従い, 島尻マージ, 国頭マージおよびジャーガルの3種に大別できるが,島尻マージの散逸係数が他の土壌より高い値を呈した。逸係数の変動要因を調べるために土壌の放射性核種濃度と物理パラメータの分析を行った結果,ラドン散逸係数の変動は, 主に含水量, 粒径, 238U系列濃度によって規定されることが示唆された。次に, 土壌から散逸したラドンの地下水への挙動について沖縄島南部に所在する玉泉洞を対象として検討した。玉泉洞内における滴下水中ラドン濃度を液体シンチレーションカウンターによって測定した結果, 算術平均値は8.6 kBq m-3であった。ラドン散逸係数を用いて推定した滴下水中ラドン濃度は約9 kBq m-3となった。これらから, 土壌からの散逸ラドンが, 約10日間かけて琉球石灰岩中を浸透した玉泉洞内の滴下水に含まれていることが強く示唆された。以上から,土壌粒子中で生成されたラドンの土壌空隙への移行を定量的に評価することで, 土壌を起源とするラドンの地下水中濃度への寄与が推定可能である。
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