研究概要 |
今年度は主に、近年Bridgelandが導入した2周期的複体のHall代数について研究を進めた。 Hall代数とはAbel圏に対して拡大の数え上げを構造定数として定義される結合代数である。箙の表現圏に対するHall代数は量子群の上三角部分と同型であり、また曲線上の連接層のなす圏に対するHall代数は量子ループ代数やDing-Iohara-Miki代数など無限次元量子群の上三角部分と関係することが知られている。 2011年の秋、BridgelandはAbel圏の2周期的複体のなす圏からHall代数を導入し、一般的な状況下で結合代数が得られる事を証明した。またAbel圏が遺伝的な場合、BridgelandのHall代数が元のAbe1圏に対するHa11代数を部分代数として含むことも証明されている。 今年度前期、私はBridgelandのHall代数が元のHall代数のDrinfelddoubleと代数同型であること、更に導来同値から複体のHall代数の自己同型が誘導されることを示した。この結果をプレプリント(A note on Bridgeland's Hall algebra of two-periodic complexes, arXiv : 1207.0905)にまとめた。 特に楕円曲線上の連接層なす圏についてこの議論を適用すると、Ding-Iohara-Miki代数のDrinfeld doubleの自己同型群にSL(2,Z)が含まれることが分かる。この自己同型はK理論的AGT予想において重要な役割を演じると期待される。 また今年度後期は余積構造について研究を進めた。従来のHall代数にはGreenによって余積が導入されているが、私はその類似物をBridgelandのHall代数に導入した。余積の構成には完全圏に対するHall代数の枠組みを用いる。またAbel圏が遺伝的な場合、BridgelandのHall代数が双代数としてDrinfelddoubleと同型であることも証明した。これにより普遍R行列の存在が保障され、K理論的AGT予想の理解が一つ進んだことになる。これらの結果はプレプリント(Bialgebra structure on Bridgeland's Hall algebra of two-periodic complexes, arXiv : 1304.6970)にまとめてある。
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