研究概要 |
リーマン・ゼータ函数をマイクスナー・ポーラチック多項式で展開するというクズネコフの結果の整理、拡張の過程で管状領域、あるいはその有界対称領域上の正則函数のなすヒルベルト空間やシロフ境界上のハーディー空間等の函数空間と、それらの間のラプラス変換、フーリエ変換、ケイリー変換で与えられるユニタリ変換を用いて、多変数の特殊直交多項式の研究を行った。その結果として以下の二つの成果を得た。 1. 一変数の時の円環ヤコビ多項式に関するシェンの結果を、対称錐上の解析を用いて多変数化し多変数円環ヤコビ多項式の導入した。加えてその直交性, 母函数, 更にそのケイリー変換が満たす擬微分関係式も導出した。これは球多項式の2-パラメータ変形にあたる多変数直交多項式系だが、従来知られていた球多項式のパラメータ変形であるA型のジャック及びマクドナルド多項式とも、BC型ヤコビ多項式とも異なり、ランダム行列で知られる円環ヤコビアンサンブルを重み函数としてもつ。また構成の仕方から可換な擬微分作用素族の同時固有函数になることが期待され、量子可積分系の観点からもとても興味深い対象である。 2. 離散型の直交多項式系として良く知られているマイクスナー, シャリエ, クラウチェク多項式の一般二項係数による多変数化を行い, 母函数, 直交性, 差分関係式等の基本的な性質を導出した。これは従来の青本・ゲルファント型の超幾何函数を用いた多変数化とは異なる拡張であるが、一変数の時と同様の基本的な諸性質を持つことから良い多変数化である。また諸性質の導出の際に鍵となる「マイクスナー多項式の母函数の母函数がラゲール多項式の母函数になる」という結果はこれまで一変数においてさえ知られていなかった事実であり、離散型と連続型の直交多項式系の対応を与えたという点でも重要であると考えられる。
|