研究概要 |
火星はかつて劇的な気候変動を経験した事が知られており, 惑星大気の宇宙空間への流出が大気進化の過程を理解する上で重要な役割を果たした可能性が指摘されているが, その物理機構については未解明な点が多い。計画最終年度では, Mars Express (MEX)とMars Global Surveyor (MGS)の両火星周回衛星が観測したデータを総合的に用いて, これまでに実態のあまりよく分かっていなかった, スパッタリングと磁気フラックスロープという大気流出機構に着目して, 各々の太陽風応答特性と磁気異常帯への依存性を調べた。特に後者については, MGS衛星によって観測された1999~2006年までの7年を超える磁場データを統計的に解析することによって, 磁気異常帯の下流で見られる大規模なフラックスロープは, 太陽風動圧が高いほどより頻繁に観測される傾向を明らかにした。また, 衛星の1点観測データからフラックスロープの2次元構造の推定が可能なGrad-Shafranov (GS)再現法を用いて, 推定されたフラックスロープの回転軸の方向から, 形成メカニズムに惑星間空間磁場が関与しない場合とする場合とを判別する手法を提案し, 両者の観測比率がおよそ2:1であることを見出した。すなわち観測されたフラックスロープのうち, 約2/3はフラックスロープの磁力線の足元は惑星表面に接続したままである可能性が高く, そのままでは宇宙空間に流出するのは難しいのに対して, 残りの約1/3は, 惑星から流出することが比較的容易であるという結論を得た。
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