研究課題
特別研究員奨励費
核DNAの8遺伝子座(Mgf、Tg、Tshb、Sptbn1、Mc1r、Asip、Phka2、Sry)を用いた解析を行った。その結果、北東アジア産ノウサギ属は第四紀前期に分岐した3つの系統群に明瞭に分けられ、L. brachyurusの高い遺伝的固有性とL. timidusの単系統性が示されたが、L. mandshuricus・L. coreanus・L. melainusは一つの系統群として括られ、これら3種については同一種(L. mandshuricus complex)としての扱いが強く支持された。また、北東アジアの大陸種(冬季白化・非白化種を含む)において複数種間のintrogressionを伴った網状進化が起きていることが示唆された。さらに、mtDNAのCytb遺伝子座についても解析を行い、核DNAの解析結果との比較からintrogressionの影を明らかにし、それがもたらされた要因についてより詳細な考察を行った。特に冷帯と温帯の境界付近に分布するL. mandshuricus complexでは、北方種のL. timidus と南方に生息する温帯種のL. sinensisの双方から第四紀後期以降にintrogressionが繰り返し起こり、それによって種独自のmtDNA系統は完全に失われてしまう“mitochondria capture”が起きていることが示唆された。これらの結果は、北東アジアにおけるノウサギ属の網状進化は、第四紀の気候変動に伴って北方種と温帯種の分布の変遷が大陸で繰り返されたことで種間交雑が促進されたためであると推察された。またmtDNAの解析では、日本列島内にニホンノウサギとユキウサギの各種内で地理的分布の大きく異なる2つの亜系統への分化が示唆された。これは、第四紀中期以降の大陸からの隔離状態と、氷期における列島内の複数フュージアの存在を示唆していると考えられる。これらの結果から、大陸各地で頻発しているノウサギ属のintrogressionと、北東アジアに生息する生物の集団史を理解する上で、環日本海地域は歴史的かつ地理的側面から非常に重要なフィールドであることが示された。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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