研究概要 |
本年度は遷移金属錯体を触媒に用いた直接アミノ化反応の不斉展開を指向した研究開発に着手した。 まず、これまでに報告例がほとんどないニッケルを中心金属に配位子の検討および添加剤の検討、溶媒の検討を行った結果、アセトニトリル中、添加剤にテトラブチルアンモニウムアセテートを2.5mo1%、配位子に1.0mo1%の1,1'-ビスジフェニルホスフィノフェロセンを用いることにより、アリルアルコールのジベンジルアミンによるアミノ化反応が単離収率86%で反応が進行することを見出した。また配位子を検討していた段階で、1,1'-ビスジフェニルホスフィノフェロセンのみならず、キラルなジホスフィン配位子と有名なBINAPでも反応が進行することを見出した。現在は気質一般性の拡張を行っている段階であり、様々な2級アミンやアニリンでも反応が進行することを見出した。さらに様々な構造のアリルアルコール類も利用可能であることが分かった。しかしながら、生成物に不斉点を有するものにおいては、反応性が低く、これからさらなる検討が必要である。 またニッケル錯体だけでなく、モリブデン錯体によるアミノ化反応の開発にも着手した。モリブデン錯体はこれまでのパラジウム錯体よりも反応性が非常に低いことが知られているが、イリジウム錯体と類似の位置選択性を示すため、モリブデン錯体によるアリルアルコール類およびその誘導体の不斉アミノ化反応を達成することができれば、キラルなアミン類を安価に生成できるため有機合成化学だけでなく創薬化学、工業化学にとって重要な反応である。 モリブデン錯体を触媒に用い、メチルシンナミルカーボネートとジベンジルアミンを反応させたところ、目的のアミン化合物が得られただけでなく、アリル部位が2量化した化合物が位置異性体の混合物で得られたことが分かった。しかしながら、まだ反応性は低く、さらに副生成物の生成を抑制する必要がある。そのため、さらなる配位子の検討および溶媒、添加剤についても検討の余地が残されている。 これら2つの触媒系によるアリル化合物のアミノ化反応を開発することができれば、非常に安価な触媒で、利用価値の高いアリルアミン誘導体を合成できることから、人類のさらなる発展に貢献できると考えている。
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