研究課題/領域番号 |
12J05678
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
研究分野 |
日本文学
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
関本 真乃 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2012 – 2013
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研究課題ステータス |
完了 (2013年度)
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配分額 *注記 |
1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2013年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2012年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | 苔の衣 / 栄花物語 / 中世王朝物語 / 中世文学 / 歴史物語 / 歴史物語享受 / 系譜 / 後嵯峨院 / 歴史物語摂取 / 系図 |
研究概要 |
『苔の衣』は昨年度の研究でも示した通り、苔衣大将と、彼を出家させる聖がそれぞれ、将来の栄達を拠って出家遁世を遂げた人物として著名であった、藤原道長の息顕信と、藤原高光の系贈を下敷きにしていることを明らかにした。その上、苔衣大将は系譜から見ても、『栄花物語』の利用から見ても、出家にいたるまで、顕信・教通・頼通という道長の息子三人を意図的に集約して造型されていることが明らかになった。つまり『苔の衣』は、苔衣大将とその出家遁世を、御堂関白家を中心とする史実を援用1することで、説得力を持って描くことを構想の柱としていると考えられる。この成果は『国語国文』第82巻第7号に「『苔の衣』の大将の主人公性』(平成25年7月25日)として掲載された。 引き続き、この構想や、史上実在した人物の系譜や逸話を、『苔の衣』がいかに利用しているかについて考察を進めた。 まず、複雑で入り組んだ『苔の衣』の登場人物の人間関係を整理した。これにより、『苔の衣』の系譜や人間関係が、確かな意図を持って作られた矛盾無いものであることがわかった。そして、摂関家の対抗勢力として登場する内大臣家及び左大臣家も、中関白家、小一条家・小野宮家といった摂関政治全盛期の摂関家にとっての対抗勢力を下敷きにし、造型されていることを、系譜やそれぞれの人物に関する『栄花物語』の逸話などから明らかにした。つまり、『苔の衣』は摂関政治全盛期に取材し、摂関政治全盛期を舞台とした物語であると言える。 「準拠」という方法を、当時の物語作者が活用した実例を示し、当時『栄花物語』などの歴史物語が、先例や社会の在り方、政治までも学び得る書物として熱心に享受されていたことを認識した上で、『苔の衣』を含む中世王朝物語を読む必要があることを示した。この成果は『京都大学國文學論叢』第30号に「『苔の衣』系譜考」(平成25年10月25日)として掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
『源氏物語』に見られる「準拠」という方法を、『苔の衣』が歴史物語などを基として活用したことを明らかにし、その過程で、『苔の衣』が、歴史知識を共有する場で、その史実の共有を前提として制作された可能性を指摘した。これにより、後嵯峨院時代には『栄花物語』などの歴史物語が、先例や社会の在り方、政治までも学び得る書物として熱心に享受されていたことを認識した上で、『苔の衣』のみならず中世王朝物話全般を読む必要があることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
『苔の衣』の巻四は、巻一から三までとは文章も構想も異なっている。まずこの点について詳しく検討し、さらに准拠となった先行作品がないか調査し、引き続き物語制作圏について検討する予定である。また『石清水物語』は摂関の継承順等に五摂家成立を思わせる描写があることから、成立年代や制作圏に迫りたい。いずれにしても、当時の物語と社会、歴史認識との関わりを検討し、その意図について検討する予定である。
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