研究概要 |
歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisのゲノム上に存在する反復配列clustered regularly interspaced short palindromic repeat (CRISPR)の比較解析を中心として, ゲノム情報に基づいた多数の臨床分離株の系統学的解析や発現解析により, CRISPRと遺伝子間領域が本菌の口腔内生存戦略において担う機能の解明を本研究の目的とした. まず, P. gingivalis 51株において, 次世代シーケンサー MiSeq (Illumina社)を用いてドラフトゲノム配列を決定した. 全株に共通して存在する遺伝子数および遺伝子クラスター数の, 株数増加に伴う変化を予測したところ, pan-genome sizeが収束しないopen pan-genomeであることが示された. これより, P. gingivalisは他の細菌種などからの遺伝子獲得により, 進化・多様化を図っているものと考えられた. 次に, P. gingivalis 51株において, CRISPRの構成要素であるスペーサー配列が3,223個され, クラスタリングにより2,018種類のnon-redundantなスペーサーに分類された. 各ゲノムに1コピーのみ存在するコア遺伝子341種類による系統樹を作成したところ, 保有スペーサーの種類が類似する株群が, 系統樹において近い系統距離を示した. よって, P. gingivalisではCRISPRが進化・多様化に関わると考えられた. さらに, スペーサー2,018種類の中で標的配列が同定されたもののうち98.0%(603/615)は, P. gingivalisのゲノム配列を標的としていた. その603種類のスペーサーのうち167種類は遺伝子領域, 残り436種類は非遺伝子領城を標的としており, 前者のうち37.7%(63/167)は, 接合トランスポゾン上の遺伝子領域を標的としていた. よってP. gingivalisはCRISPRにより菌体間組換えを抑制的に制御すると考えられた.
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