研究概要 |
アルツハイマー病、ピック病などは、細胞内に異常にリン酸化されたTauの蓄積が見られることからタウオパチーと呼ばれている。1999年に家族性の前頭側頭葉型認知症(FTDP-17)でTauの変異が発見され、Tau自体の変異によって、異常リン酸化、蓄積、そして、神経変性が引き起こす事が分かっているが、異常リン酸化が原因か結果かはまだ明らかになっていない。Tauの過剰リン酸化が原因か結果かについては議論の分かれるところであるが、異常リン酸化機構を明らかにする事は、タウオパチーの病理解明に重要である。アルツハイマー病患者脳内では30カ所以上のTauのリン酸化が報告されており、主なリン酸化酵素としてCdk5、GSK3-β、PKAなどが知られている。今までTauの異常リン酸化部位の検出にはリン酸化抗体が用いられてきたが、生体脳内では複数のリン酸化部位が存在する為、多くのリン酸化抗体が必要となりリン酸部位間の定量的な比較は困難な事から本研究ではPhos-Tag SDS-PAGEを用いてTauのリン酸化を解析した。はじめに培養細胞内でのTauのリン酸化を解析した。Tauの主なリン酸化酵素であるCdk5のリン酸化サイトはS202, T205, S235, S404である事が知られていたが、リン酸化箇所を1箇所つぶした1A変異型、1箇所だけ残した3A変異型を作成し解析した所、主なリン酸化サイトがS202, S235, S404である事が分かった。またFTDP-17変異Tau間によるリン酸化を解析した所、TauのC末変異を持つTauのリン酸化状態が野生型に比べ異なる事を明らかにした。続いてタウオパチー患者脳内でのTauのリン酸化解析を行った。アルツハイマー病(AD)、大脳皮質基底核変性症(CBD)患者脳を用いて解析を行った結果、AD, CBD患者脳内で凝集していないTauのリン酸化状態は健常者と同等であり、凝集したTauのみ高リン酸化が引き起こされているという事も明らかにした。これらの結果からPhos-TagはTauのリン酸化を解析する上で有用であり、生体内でのTauのリン酸化を容易に解析できる事から将来バイオマーカーをして使用できる可能性が高いと考えている。
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