本研究はシロイヌナズナの花茎が示す動屈性における重力感知機構に関する研究である。シロイヌナズナの花茎の重力感知機構にはAtLAZY1遺伝子が関与することは先行研究(Yoshihara et al. 2013)により明らかであるが、AtLAZY1の分子機能が明らかでないことにより重力感知の分子機構もまた未解明である。一方で、AtLAZY1の変異体は重力屈性の不完全な欠損を示すことから、AtLAZY1が関与する機構は重力屈性において必要十分ではなく、重力屈性機構の理解にはAtLAZY1を介さない機構の解析も必要であると思われた。本年度はこれらの問題に取り組むため、atlazy1変異体の表現型復帰変異体(抑圧変異体)の単離と解析を行った。その結果、2系統の変異体dsl1及びdsl2を単離した。そして、dsl1は転写因子をコードする遺伝子ASL5、dsl2は既知の微小管結合タンパク質ATNのホモログATN-likeの過剰発現体である事を明らかにした。ASL5とATN-likeについては共に報告が乏しいため、次にこれらの遺伝子の機能解析を行った。マイクロアレイ解析によりASL5が二次細胞壁を制御していることを明らかにするとともにセルロース合成阻害剤が重力屈性を阻害すること、及び二次細胞壁セルロース合成酵素の遺伝子欠損変異体の重力屈性が極めて遅くなることを見出した。これにより花茎の重力屈性に二次細胞壁合成が関与するという本研究の仮説がさらに支持された。また、AtLAZY1の部分配列が微小管と結合する事を見出した。この結果は微小管制御因子と推定されるATN-likeの過剰発現がatlazy1変異体の表現型を回復できることと関連していると思われる。
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