研究課題
特別研究員奨励費
本研究課題では、細胞内グルタチオントランスフェラーゼ(GST)を高感度検出するためのプローブ開発をすることを目的としている。GSTは、がん細胞で過剰発現していることが報告されている。そのため、細胞内GST活性を検出できるプローブは、投薬診断法や分子イメージング創薬への応用が期待される。そこで、今年度は、細胞内GST検出を可能とする新規19F NMRプローブを開発した。核磁気共鳴画像法(MRI)は、個体深部での観測が可能なことから診断技術のとして有用である。また、19F核は生体内でほとんど存在しないことから、シグナル/バックグラウンド比の高い観測が可能となる。7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン(AFC)のアミノ基に制御ユニットANs基を導入することで19F MRIプローブを設計した。ANs-AFCは、GST/GSH触媒作用によりANs基が脱離することにより、磁場環境下の19Fの化学シフトが移動する。同時にAFCによる蛍光シグナルも発生することから、二重機能性を有するプローブである。ANs-AFCを用いて19F NMR測定による反応解析を行った。ANs-AFCをGST/GSH溶液中に添加したところ、はじめANs-AFC由来のピークが観測された。時間経過とともに、低磁場側に生成物AFC由来のピークがあらわれた。さらにGSTを発現する大腸菌培養液中にANs-AFCを添加し19 FNMR測定を検討したところ、溶液中と同様にケミカルシフトの移動が観察された。このピークシフトはGSTを発現しない大腸菌では観測されなかった。また、フローサイトメーターを用いて大腸菌内GSTの解析したところ、GST非存在下と比較し、3.2倍の蛍光シグナルを示した。ANs-AFCは、生体内GSTを検出するための19FMRI/蛍光の二重機能性プローブとしての利用が期待される。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、求核剤による芳香族求核置換反応を鍵反応とする新規19FNMRプローブの開発に成功した。本システムは、CF3基をラベルしたアミノクマリンのアミノ基をアセチルニトロベンゼンスルフォニル基で保護したプローブをグルタチオン(GSH)/グルタチオントランスフェラーゼ(GST)触媒作用により、アセチルニトロベンゼンスルフォニル基が除去されることにより、磁場環境下の19Fの化学シフトが移動する。また、プローブはアミノクマリンによる蛍光シグナルも発生することから、二重機能性を有する。GSTを標的とした19FNMRプローブは、これまで報告されておらず、初めての成果である。
これまでの成果を基にして、今後は、19FMRIプローブを開発する。19FMRIプローブを用いて、サブセルラーから個体レベルまでのGST検出法の確立を目指す。また、細胞ベースのHTS法を用いた分子イメージング創薬研究を展開する。阻害剤候補となる化合物ライブラリーは、NPDepoから入手する。理化学研究所で保有するGE Healthcare社製In Cell Analyzer 2000を用いて、細胞内GST活性レベルを定量化し、GST機能発現阻害を作用機序とする新たな抗癌剤候補の獲得を検討する。
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