研究課題
特別研究員奨励費
近年、アトピー性皮膚炎の患部表皮角化細胞においてThymic Stromal Lymphopoietin (TSLP)が高産生されることが知られるようになり、病態形成との関わりが注目されている。平成24年度に我々はアトピー性皮膚炎の表皮角化細胞のin-vitroモデルおよび病理組織検体を用いて、TLR3リガンドがdeltaNp63の発現抑制を介して表皮の炎症環境を増幅するTSLP自己分泌・傍分泌経路を制御しうることを明らかとした。平成25年度は表皮ケラチノサイトにおいてdeltaNp63の制御を受ける分子のさらなる探索とdeltaNp63とともに他のp53ファミリー転写因子がアトピー性皮膚炎においてTSLP産生に果たす役割について検討を行った。RNA干渉法を用いたin vitroにおける検討で、deltaNp63は上皮バリアを構成するある種のバリア関連蛋白を制御することが分かった。また、アトピー性皮膚炎の表皮では健常表皮と比較してこの蛋白が広範に発現していることが病理組織検体を用いた免疫染色から明らかとなった。これはアトピー性皮膚炎の表皮においてdetaNp63の発現が低下しているとする我々のこれまでの検討と合致するものである。さらに、アトピー性皮膚炎の表皮から採取された病理組織検体を我々が作成したある種のp53関連転写因子を特異的に染色する抗体を用いて染色した結果、アトピー性皮膚炎の表皮において当該転写因子が健常表皮と比して広く発現する傾向にあった。また、初代培養ケラチノサイトに対するTLR3リガンド刺激はTSLPの発現を増強すると同時に当該転写因子の発現増強を誘導した。以上より、この転写因子がTSLPの発現調節に関わっている可能性を考え、in vitroにおける強制発現系を用いた検討を進めている。本研究によって、表皮においてp53ファミリー転写因子が自然免疫経路によって発現調節され、表皮におけるサイトカイン環境およびバリア機能を規定しうることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
deltaNp63をはじめとするp53ファミリー転写因子が表皮ケラチノサイトの生体防御機能にかかわる幅広い遺伝子の発現を調節する可能性を示した点については予想通りの進行である。アトピー性皮膚炎におけるその機能的意義の詳細についてはいまだ検討中であるが、総合的にはおおむね順調と考える。
p53ファミリー転写因子がTSLPの発現に与える影響について検討を進めていく。p53ファミリー転写因子はアポトーシスに関連する分子であることから、強制発現が困難な可能性がある。さまざまな強制発現の方法を検討するとともに強制発現が困難な際にはRNA干渉法を用いた遺伝子ノックダウンを用いることも考慮される。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (3件)
PLoS One.
巻: 8 号: 12 ページ: e84187-e84187
10.1371/journal.pone.0084187
巻: 8
Tissue antigens
巻: (発行中)
Anticancer Research
巻: 33 ページ: 167-73
Cancer Science
巻: 103 号: 7 ページ: 1356-62
10.1111/j.1349-7006.2012.02296.x
Carcinogenesis
巻: 33 号: 5 ページ: 996-1003
10.1093/carcin/bgs118