多細胞生物の体は器官、組織、細胞といった階層構造を持ち、発生過程においてはこらの階層が複雑に相互作用しながら全体を作り上げていく。例えば多くの発生の局面においては細胞が体軸に沿って集団的に移動していく。このような細胞の移動様式は集団的細胞移動と呼ばれ、正常な器官発生だけではなく癌細胞の浸潤といった病態の進行にも関与することが示唆されている。近年、ショウジョウバエ腹部のlarval epithelial cells (LECs)が変態期に示す集団的細胞移動においては、非典型的カドヘリンDachsous (Ds)がLECsの後側への移動を制御することが報告された。しかし、Dsがどのようなメカニズムで集団的細胞移動を制御するかはほとんどわかっていない。 LECsの移動におけるDsの役割を調べるために、移動時のDsの局在を調べたところ、以下2つの不均一なDsの局在様式を見出した : ①各体節において体の前後軸に沿って細胞膜上のDs量が変化する、②各LECにおいて前後方向の細胞境界にDsは多く局在し、背腹方向の細胞境界にはあまり局在しない。この2種類の不均一性がLECsの移動方向の制御に重要ではないかと考え、解析を進めた。その結果、体軸に沿ったDsの量の差がLECs細胞境界上のDsの偏った局在を生み出し、その偏りによって、LECsの後ろ側への移動が引き起こされることを示唆する結果を得た。移動する細胞集団自身が持つ非典型的カドヘリンの量差が集団の移動方向を決定することは今までに報告されていない。今後研究を進めることによって、新たな細胞集団移動方向の決定メカニズムを提唱できると考えている。
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