研究概要 |
受粉は植物生殖における初期の重要なステップである。雄しべから放出された花粉は雌しべ柱頭先端の乳頭細胞で受粉し、受粉後の花粉は初めに自他認識機構の一つである自家不和合性分子機構によって自家か非自己か判断される。しかし、これらの受粉分子メカニズムについては多くがまだ解明されていない。 申請者は、アブラナ科植物を材料に受粉分子機構の解明を目的とし、雌性側組織特異的な網羅的解析、柱頭上での受粉後花粉動態を経時的に観察する実験及び自家和合性変異系統(TSC4, TSC28)の遺伝学的解析を行った。 はじめに受粉分子機構における乳頭細胞組織特異的発現遺伝子群の情報基盤の構築、及び受粉分子機構の解明を目的とし、レーザーマイクロダイゼクション(LM)と次世代シーケンサー(NGS)を融合したトランスクリプトーム解析を行った。これまでにLM-NGSに関する知見は多くはなかったため、本手法における組織特異的な網羅的解析の有効性を示し、LM-NGS法の構築を行った。次にアブラナ科植物に属するArabidopsis thaliana, A. halleri, Brassica rapaを用いて、LM-NGS法による発現遺伝子の比較解析を行い、乳頭細胞の特徴を理解するとともに、アブラナ科植物で共通する受粉関連因子の探索を行った。また、TSC28系統に関しては、遺伝学的解析と網羅的解析の知見を融合することにより効率的な原因遺伝子の同定を試みた。はじめに、TSC28系統の詳細な遺伝解析を行い候補遺伝子が座乗する領域を約1Mb領域内に絞り込んだ。次に、先述したLM-NGS解析法を用いてTSC28系統と自家不和合性系統との乳頭細胞発現遺伝子比較解析を行ったところTSC28の候補遺伝子を55遺伝子にまで絞り込んだ。
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