研究概要 |
単分子磁石は一つの分子で磁石としての性質を示す面白い物質である。しかしながら、単分子磁石の表面薄膜形成時のスピンの挙動は、ほとんど明らかにされていない。量子コンピュータや単一分子メモリの作成に向けて、個々の単分子磁石のスピン検出と制御を成し遂げるのが、本研究の目的である。 これまでの研究で、分子の設計・合成により、分子の磁気的な性質を制御する試みが活発になされている。ここでは、新しく合成したフタロシアニンとナフタロシアニンの2枚のヘテロな配位子が、テルビウム原子を挟んだ、2,3-Naphthalocyaninato(NPc)Phthalocyaninato(Pc)Tb(III)(TbNPcPcと表記)について、膜形成時の磁気的挙動を調べた。Pc-up分子とNPc-up分子は表面キラル状態を形成し、2つの分子は異なった物性を持つ。TbPc2分子と同じくTbNPcPc分子でも、不対p電子が作る近藤状態が出現し、スペクトルには上に凸のピークとして観測された。被覆率が上昇すると、NPc-up分子だけで構成される1次元鎖が出現する。その場所では、近藤ピークが凹のdipとして観察された。これはスピン間の相互作用であるRKKY相互作用によって形成されたと考える。さらに被覆率を上昇させ、単層膜を形成した場合、スピンは消滅する。このように、分子の設計により、スピンに多様性を持たせた膜の形成が可能であることを示した。加えて安定純粋有機ラジカルTOV(1,3,5-triphenyl-6-oxoverdazyl)分子についても、明瞭な近藤ピークが観察され、近藤ピーク測定が有機分子スピンの検出について、有効な手法であることを証明した。(T.Komeda, H.Isshiki, J.Liu, K.Katoh, M.Shirakata, B.K.Breedlove, M.Yamashita, Variation of Kondo Peak Observed in the Assembly of Heteroleptic 2,3-Naphthalocyaninato Phthalocyaninato Tb(III)Double-Decker Complex on Au(111), ACS Nano 7(2013)1092-1099)
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