研究概要 |
本研究では, 宇宙用集積回路の革新へ向けて, グラフェン/SiC基板の量産技術の確立を目指す. 近年の集積回路技術はシリコンの微細化による高速化, 省エネ化, 高機能化が主流であった. 一方, 高放射線環境となる宇宙空間で用いる宇宙用集積回路では, 回路に対する高エネルギー粒子の入射によって半導体中に意図しない導電性キャリア(電子・正孔対)が誘起され, 回路の動作に悪影響を及ぼす(シングルイベント現象)ことから, シングルイベント現象に対する耐性(耐放射線性)が求められる. 集積回路が小型であるほど, 回路に対するシングルイベント現象の影響が相対的に大きくなるため, 微細化による高性能化と耐放射線化には本質的なトレードオフが存在する. 本研究ではこのトレードオフを解消するため, 従来の集積回路材料であるシリコン基板から, グラフェン/SiC基板への転換を提案する. 超導電性2次元材料であるグラフェンとワイドバンドギャップ半導体であるSiCを用いることで, 微細化に頼らない集積回路の高性能化と材料レベルからの放射線特性の向上が期待される. グラフェン/Sic基板の実用化にあたっての技術課題の1つに, 量産技術, すなわちSic基板上への高品質グラフェンの成膜技術の確立が挙げられる. Sic基板上へのグラフェン成膜は, Sic表面のアニーリングによる表面改質によってなされるが, 実験的制約によって改質プロセスが十分理解されていないことが, グラフェンの高品質化に向けた体系的な取り組みを妨げている. 本研究では量子力学計算によって表面改質プロセスを原子レベルで明らかにする. また, その結果と熱力学的解析を組み合わせることで, 実際の実験条件でどのような改質プロセスが行われるかを定量的に明らかにする. 以上の理論解析の結果を実験家にフィードバックすることで, 実験・理論の両面からグラフェンの高品質化が実現することが期待できる.
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