Nrf1肝臓特異的欠失マウスは、脂肪性肝炎を発症するが、Nrf2遺伝子欠失マウスは同様の表現型を示さない。したがって、Nrf1とNrf2は、異なる遺伝子群の発現を制御すると考えられるが、その詳細は解析されていない。そこで、網羅的な遺伝子発現解析により、肝臓においてNrf1とNrf2が制御する遺伝子群を調べた。その結果、Nrf1が欠失した肝臓では、多様な代謝関連遺伝子群の発現が低下した。一方、Nrf2が欠失した肝臓では、抗酸化・解毒酵素群の発現量が減少していた。このことから、肝臓において、Nrf1とNrf2は異なる局面で機能していることが示された。また、Nrf1は、一部の脂質代謝制御に関わる転写共役因子の発現を直接制御したが、興味深いことに、Nrf2は、これらの遺伝子発現制御に関与していなかった。したがって、Nrf1は、Nrf2とは異なる経路を介して、脂質代謝を制御する転写因子であると考えられる。以上より、分子進化の過程で多様化したNrf1とNrf2は、肝臓において独自の標的遺伝子を制御し、機能の違いを発揮することが示された。次に、Nrf因子とsMaf因子の2量体化の重要性を検証するため、Nrf2-sMafヘテロ2量体による転写制御系をモデルに解析した。これまでの解析から、Nrf2による遺伝子発現制御には、sMafが必要であることが提唱されている。しかし、このモデルがNrf2依存的な遺伝子発現制御機構の全体像を説明し得るかは、十分に明らかでない。そこで、本研究では、クロマチン免疫沈降-シークエンス解析(ChIP-seq)とマイクロアレイ解析を行い、Nr僅とMafGのゲノム結合部位を同定し、両因子による転写制御ネットワークの全容解明を試みた。本研究で行った網羅的解析は、Nri2によるストレス応答的な生体防御遺伝子の発現制御にsMafが必須であるというモデルを支持した。さらに、Nrf2によるNADPH産生酵素やグルタチオンを構成するアミノ酸の輸送体等の遺伝子発現制御についても、sMafが必要であることを示した。本解析により、Nrf2-sMaf2量体は、多様なストレス応答遺伝子発現制御を介して多層的に生体防御機構を発動することが実証された。本研究成果は、2本の学術論文(Hirotsu et al.2012Mol.Cell.Biol.:Hirotsuetal.2012Nucleic Acids Res.)に報告した。
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