研究概要 |
本研究は、メゾスコピック領域にあるスピンクロスオーバー(SCO)錯体の創生と新規量子効果の実現を研究目的とする。SCO現象は分子間の共同効果によりヒステリシスや多段階スピン転移が出現する。ところが、分子間の共同効果とスピン転移パラメーター(転移温度、ヒステリシス幅、多段階スピン転移)との相関は解明されていない。これまでに多数の次元性SCO錯体や単分子のSCO錯体が合成されているが、その挙動は統一性に欠け、充分には理解されていない。本研究では4核クラスターSCO錯体の構成要素を変化させて系統的な合成をおこない、共同効果が顕著な錯体を実現するとともに、光、熱とスピン挙動の関係解明に取り組む。 前年度の研究で合成された[Fe(HL^<n-Hexy1>)_3] C1Y(Y=AsF_6, SbF_6)によって小さいカウンターイオンのほうがよりすぐれたスピン転移挙動が期待できることが示唆されたため、PF6よりもさらにサイズの小さいBF_4やCIO_4を用いた錯体を合成した。結晶形から2つの錯体はPF_6錯体と同様に4核クラスター構造をとっていることが示唆された。また、サーモクロミズムも示したためSCO錯体であることも分かった。今後はX線構造解析ができる程度の結晶を合成し詳しい結晶構造と磁性について考察する。 クラスター内で段階的にスピン転移が起きることを確かめるためにSCOを起こさずFe(II)と同形構造をとりやすいNi(II)やZn(II)を用いた錯体を合成し鉄錯体と混晶を作る実験を行った。X線構造解析の結果、2錯体はともにFe錯体と同形構造をとっていることが分かった。さらにそれらを用いたFe-Ni, Fe-Zn混合錯体も結晶化することが分かった。今後はより質の高い混合錯体を合成し各種測定を行うとともに、FeとNi, Znの混合比を変えて多段階転移と4核クラスター構造との関係について解明する。
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