昨年度まで研究してきたイギリスの独立アドボケイトの実態を踏まえ、今年度は次の3点を課題としていた。1.子どもの権利論をベースにした反抑圧実践の理論的枠組み形成を行う。2.1の観点からFGC(ファミリーグループカンファレンス)を中心とした意思決定過程を再検討する。3.イギリスの独立アドボケイトの制度は2010年の政権交代の影響によって変わろうとしている。その研究会が今年度開催されるため、情報収集と関係NGO及び有識者へのインタビューを行う。 上記課題1については、反抑圧実践、その周辺理論との関係性を明らかした。その理論の核となる文献「反抑圧実践のための手段としてのアドボカシー」を翻訳し、雑誌掲載が決定している。加えて、社会福祉学会にて、この理論的な問題について発表した。課題2を1の観点で検討したところ、FGCが理念とする「家族」主義の枠内では、独立アドボケイトは「ニーズ聞き取り専門家」になってしまう危険性を指摘した。子どもが参加できない環境(周縁化)に対して独立アドボケイトが抵抗するというよりは、制度に取り込まれて「ニーズ聞き取り」に終始してしまう構造になっている。FGCという理念の再考及び独立アドボケイトの養成課程での意識変革(反抑圧実践として)がなければ、FGC内における子どもの周縁化に抵抗することは困難なのではないかと考察した。課題3については、2月末に8日間イングランドに滞在し、独自に調査を行った。この渡英調査では、理論的部分について西イングランド大学のDalrymple博士、実践の考察部分について独立アドボケイトの団体(アドボカシーサービス)6か所を訪問し、インタビュー及び資料を収集した。 さらに、日本でどのように独立アドボケイトを活用できるか検討する大阪のプロジェクトに参加し、その成果を共著として出版した。
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