今年度に実施した研究は、 (1)ヘーゲルの行為論を解明するための基礎となる彼の論理学・形而上学についての研究 (2)合理性という観点から現代行為論の問題にアプローチする研究 の大きく二つに分けられる。 (1)については、「ヘーゲル『大論理学』の法則論」という論文等を通じて成果を発表した。これらのうち、論文「ヘーゲル『大論理学』の法則論」では、ヘーゲルが科学法則について論じている場面に焦点を当てた。これを通じて、ヘーゲルが、科学理論の体系性を重視する立場を取っていることを解明した。科学理論をどのように理解するかということは、自由と必然性の対立という問題を通じて、行為をどう理解するかに関わってくる。この必然性の問題についてより直接に論じたのが、口頭発表「現実性と「概念の生成」」である。この発表では、必然性や現実性といったいわゆる「様相論」と呼ばれる議論から、認識や行為の主体=主観について論じられる「概念論」への移行がいかにして生じているのかという切り口から、ヘーゲルにおいて必然性の概念がどのように理解されているかを明らかにした。 (2)については、論文「行為とその合理化 : 共感・共同行為への問いの根底にあるもの」や、口頭発表「純粋意図と実践的推論」において成果を発表した。これらの論文・発表では、人が意図的に、特定の理由を持って何かを行なう、という現象をどのように分析し理解すべきか、という問題について論じた。人が意図的に行為したならば、その人は、「なぜその行為をしたのか」という理由を挙げることができるはずである。しかし、行為の理由が複数考えられる場合がある。このような場合に、いずれの理由によって行為したのか存いかに決定すべきか、という問題を切り口に、行為と合理性の関わりについて論じた。
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