昨年度に引き続き、赤外分光イメージング法を用いた高分子材料中の3次元分子配向評価法について検討を行った。昨年度までは実験設備の都合上、透過光学系による測定・評価を行っていたが、この光学系では原理上フィルム状試料の面内方向の分子配向しか評価を行うことができなかった。そこで本年度は当初の研究計画で提案していた減衰全反射(ATR)法の光学系で評価を行った。ATR法の光学系と赤外分光イメージングを組み合わせたATRイメージング法と、研究代表者がこれまでに取り組んできた偏光解析技術を1組み合わせることで3次元分子配向の可視化技術が実現できるかを、特徴的なバンド構造を有するポリ-(R)-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)の球晶をモデル試料として検証を行った。 昨年度までに使用してきた赤外分光イメージング装置と本年度に使用した装置では、同じ透過法の光学系であっても検出器や移動ステージの有無といったイメージング計測の原理が異なったため、これまでに用いてきた偏光解析技術が利用できるか、再現性の確認をまず行った。PHB球晶中の分子配向の面内分布にっいて研究代表者が以前提案した4偏光法を用いて評価を行ったところ、過去の結果と同様の結果が得られ、解析法の信頼性を確認することができた。 続いてATRイメージングの光学系に偏光を組み合わせた実験を試みた。従来法で用いられてきたp-偏光、s-偏光だけでなく、それらの中間の偏光状態においてPHBバンド球晶の測定を行った際にどのような赤外吸収像が得られるかを調べた。その結果、面内方向の分子配向状態に従って、各偏光における吸光度分布に変化が観察された。またバンド構造は判然としなかったが、偏光依存性のみを抽出するデータ処理を行ったところ、バンド構造に対応する変化が観察されることが確認できた。 さらに詳細に各偏光状態における試料表面での電場の3次元異方性について解析を行うことで、高分子球晶のATRイメージが示した偏光依存性の解釈を行うことができた。
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