研究概要 |
研究代表者は, 上記の研究課題を遂行するにあたり、研究対象として選定した4つの超新星残骸(SNR ; RXJI713, Vela Jr., HESSJ1731, RCW86)について、星間ガスと高エネルギー放射の関係性を観測的かつ定量的に解明し、宇宙線の加速機構解明に貢献した。当該年度に実施した研究の成果を下記にまとめる. [A]昨年度のうちに陽子起源ガンマ線が確認されたRXJ1713とVela Jr. に続いて, HESSJ1731およびRCW86についても, 同定した全星間ガスとガンマ線分布の比較を行った. 興味深いことに, HESSJ1731では, SNR北部は陽子起源, 南部は電子起源というように, それぞれガンマ線の放射機構が異なることが判明した. 初めてのハイブリッドモデルケースと言える. 北部の陽子起源ガンマ線からは, 宇宙線陽子の加速効率は0.1%であり, 同年齢のSNRでは加速効率も同程度となることを示せた. 宇宙線加速とSNR年齢との関係を探る上でも, 重要な研究成果といえる. [B] RCW86については, ガンマ線の起源解明には至らなかったが, 宇宙線電子加速についての新たな知見を得ることができた. これまで衝撃波による宇宙線加速と周辺星間ガスの加熱/電離は, 衝撃波エネルギーの範囲内で釣り合っていると考えられてきた. この定説を, 星間ガスのデータとX線のエネルギー分布を比較することで, 初めて定量的かっ観測的に示すことができた. この発見は、効率の良い宇宙線加速を理解する上で非常に重要な観測的知見となる. 現在, 申請者が第一著者の論文として投稿準備中である. [C]上記4つのSNRについて, オーストラリアのMopra電波望遠鏡によるCO(J=1-0)輝線を用いた高空館分解能観測を実施した. NANTEN2望遠鏡により取得されたCO(J=2-1)輝線との比較を行うことで物理量を推定したところ, 衝撃波を受けた分子ガス周辺が加熱されていることを突き止めた, 衝撃波相互作用時間が100年程度のSNRでは初めての知見であり, その温度上昇値が小さいことから, かなりの割合の衝撃波エネルギーが宇宙線加速に使われていると推測される. 衝撃波相互作用の解明に向けても大きな前進となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
4つのSNRにおける宇宙線陽子加速の検証を主たる目的としていた観点からみて, 同定した星間ガスとガンマ線分布の比較研究がすべて完了し, 学術論文として専門誌に投稿または投稿準備中である現状を鑑みると, おおむね研究の目的は達成できたといえる. さらに, 宇宙線電子の加速効率と星間ガスの加熱・電離とのあいだの関係を観測的に定量化できたことは, 当初の計画を上回る進展である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は最終年度を迎えたが, 今後の推進方策を決めるうえで重要な知見を得られた. 特に宇宙線電子の加速については予想以上の進展があり, これまで蓄積した研究手法を他のX線で明るいSNRにっいて適用することで, 現象の普遍性の検証をしていく方策である. 理論サイドからは, 現時点で提案されている新しい宇宙線加速機構モデルを精査し、それらで説明可能な現象かどうかを精査する。一方, SNRにおける宇宙線陽子加速については, ガンマ線のエネルギー分布を空間的に示して星間ガスの分布と比較することを検討している. 今後10年以内にCTAというチェレンコフ望遠鏡についてこの研究が実現するので, それまでは宇宙線電子についての知見をさらに深め, CTA時代に我々が研究をリードしていく立場になれるよう, 解析手法などのブラッシュアップも行う予定である.
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