研究概要 |
情動に関連した精神障害においては、内受容感覚の鋭敏さが感情経験に影響を与え、障害の発症と密接な関係にあることが報告されており、身体由来情報の処理と感情経験の関係のメカニズムが注目を集めている。本研究は、このような背景のもと、内受容感覚と主観的感情の関係性を検証し、感情経験を生み出す脳と身体の関係性を明らかにするために、健常者を対象としたfMRI研究および島皮質やその周辺領域に損傷を持つ症例を対象とした神経心理学的研究を実施している。今年度は、前年度の成果を踏まえて、引き続き下記のようなfMRI研究および神経心理学的研究を行った。 1, fMRIを用いた研究 : 昨年度に続き, 内受容感覚の感度が個人の主観的感情経験を左右し, 個々人のアレキシサイミアや不安傾向につながっているかどうかを検討した. また, この関連性を支える神経活動についてfMRIを用いた検討を実施した。その結果, アレキシサイミア傾向が高い個人においては, 内受容感覚を感情として解釈する傾向に乏しく, 感情を意識するために身体状態を参照する程度が低いことが示唆された. 彼らが見せる状況の細やかな変化に依存しない形式的な感情表現を説明するデータであると考えられるだろう. 内受容感覚が不安感などの感情経験に及ぼす影響や, 心身症の発症機序との関連性については, 今後さらなる検討が必要である. 2, 神経心理学的研究 : 内受容感覚の処理に関与が指摘されている島皮質などの領域に損傷を持つ症例を対象に、感情の処理および内受容感覚の処理過程を評価する課題を実施した。これまで行ってきた共同研究に加えて、特に島皮質の感情処理過程に着目した新たな共同研究も開始した。研究結果は、英語論文として投稿する準備を行っているところであるが、脳機能画像研究から指摘されてきたように島皮質が内受容感覚を介して感情処理を支えていることを支持する結果を得ている。
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