半導体ナノ粒子(量子ドット)は、高い理論変換効率をもつ太陽電池の光吸収材料として注目されている。これまで、主に二元系半導体ナノ粒子(CdSeやPbS等)において研究が進められてきたが、そのほとんどが毒性元素を含み、応用範囲が限られる。一方、バルク半導体を利用する薄膜太陽電池も活発に研究されており、材料としては、レアメタルを含まないCu2ZnSnS4(CZTS)やAg2ZnSnS4(AZTS)半導体が注目されている。しかし、これらの多元系硫化物ナノ粒子は合成例が少なく、太陽電池材料として利用する研究はほとんど進んでいない。そこで本研究では太陽電池材料として期待されるが、合成例が報告されていないAZTSナノ粒子の液相合成とその光電気化学特性評価を行った。Ag、Zn、Snの各金属酢酸塩とジエチルジチオカルバミド酸ジエチルアンモニウム(S源)をオレイルアミン中で熱分解し、平均粒径15nmのAZTSナノ粒子を調製した。得られたナノ粒子を積層したITO電極の光電気化学特性から、粒子がn型半導体特性を示すことを明らかにした。さらに、ITO電極上にAZTSナノ粒子と、広い光吸収波長域を持つCZTSナノ粒子を組み合わせた複合薄膜(CZTS/AZTS)を作製したところ、CZTS/AZTSナノ粒子複合膜の光電流値はCZTSのみの膜に比べて約10倍大きな値となり、複合化により光応答特性向上、高効率な電荷分離が達成された。 多元系硫化物半導体ナノ粒子のサイズや組成の制御法の確立、異種ナノ粒子の複合化による高効率に励起子を取り出す光機能電極の設計が進めば、高効率な量子ドット太陽電池が実用化されると期待できる。以上より本研究で得られた知見は、低毒性半導体ナノ粒子の太陽電池への応用において非常に有用といえる。
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