研究概要 |
本研究では高出力な水の窓光源を実現するため, 疑似連続スペクトル(unresolved transition array : UTA)を有する原子番号の大きい元素をターゲットに用いるプラズマ光源の研究を行っている. 昨年度行った理論計算により電子温度500 eVのビスマス(Bi)プラズマから4d-4f遷移による4.0nm及び4.2nm, 1keVで4p-4d遷移による3.2nmの発光が得られることを明らかにしたが, 昨年度に行った分光実験において4p-4d遷移による3.2nmの発光は観測されなかった. これはプラズマによる放射の再吸収が原因であると考えられるため, 今年度はBiイオンの吸収特性を明らかにする事に重点を置き研究を実施した. 実験では, 一台目のレーザーパルス(パルス幅170 ps, 波長 1064nm)によって作られたハフニウム(Hf)プラズマから放射された光(連続スペクトル)をもう一台のレーザーパルス(パルス幅7 ns, 波長 1064nm)によって作られたBiプラズマ(吸収体)中に入射させ吸収を誘起した. 吸収体中を通過した光を斜入射型軟X線分光器で観測し, 吸収体を通過させずに観測した連続スペクトルと比較することによりBiイオンの吸光度を算出した, 3nmの領域に強い吸収を持つと予測されたが, 観測されたビスマスの吸光度は長波長側に比べ短波長側の吸収は弱く, 3nmに強い吸収は観測されなかった. 従って発光スペクトル観測において4p-4d遷移による3.2nmの発光が観測されなかった理由は, プラズマ中での再吸収によるものではないと結論付けられる。観測された吸収スペクトル中に複数の吸収線が観測されたため, 吸収スペクトルを理論計算した. 計算によって得られたBi IからBi IVの4f-nd (n≧6)内核遷移による吸収スペクトルは, 観測された吸収線と一致した. 本研究では, UTAピーク波長の原子番号依存性を明らかにし, 水の窓領域においてBiプラズマからのUTA放射を観測した. しかしながら, 理論的に予測された4p-4d遷移による3.2nmの発光は観測されなかった. これは, プラズマの電子温度が1 keVに達していないことが理由であると考えられる.
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