研究概要 |
湾曲型芳香族化合物であるコラニュレンは歪んだ芳香環曲面を有するため、平面芳香族化合物とは異なる性質や機能の発現が期待できる。本年度はコラニュレン分子による機能創出を目指し、その電子移動反応について研究を行った。 まず、報告例のない曲面間の分子内電子移動反応を目指した。コラニュレンの芳香環曲面は、球状のフラーレンC_<60>の認識に適していると考えられてきた。一方、C_<60>外部骨格を有するリチウムイオン内包フラーレン(Li^+@C_<60>)は、C_<60>よりも優れた電子受容性を示す。そこで、コラニュレンの曲面を利用してLi^+@C_<60>との錯体形成を試みたところ、基底状態で比較的安定な電荷移動錯体を形成することを見出した。さらに、Li^+@C_<60>を光励起すると、励起状態でコラニュレンと超分子錯体を形成し、分子内電子移動反応により三重項電荷分離状態を生じた。電荷再結合過程も分子内逆電子移動過程であり、得られた電荷分離状態の寿命は240μsと長寿命であることが分かった。 また、近年、種々の電子移動反応においてルイス酸により反応性を制御できることが報告されている。コラニュレンと1,2,4-トリメチルベンゼンの溶液に光照射を行ったところ、ナノ秒時間分解分光法によりラジカルイオンペアが観測され、これらの分子の間で光誘起電子移動反応が生じることが明らかとなった。スカンジウムイオンを加えて同様の反応を行ったところ反応が促進された。一方、コラニュレンラジカルアニオンとスカンジウムイオンを反応させると、錯体の形成がEPRにより観測された。これらの結果から、コラニュレンラジカルアニオンにスカンジウムイオンが結合することにより反応が促進されることを見出した。 以上の結果は、これまでに例のない芳香環曲面間の分子内電子移動反応を明らかにすると共に、芳香環曲面と芳香環平面の間の電子移動反応の反応性を制御する手法を示した点で興味深いものである。
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