研究の目的は以下の二つであった。一つは、メディアの存在やメディア規制が政権の安定、ひいては経済にどのような影響を与えるのか考察することである。もう一つは、新しいメディアの勃興によって、政治的影響の与え方がどのように変化するのか考察することである。 この最終的な研究目標を達成するための前段階として、今年度はマスメディアが政治家と癒着しやすいのはどのような状況下においてなのか比較的簡単な繰り返しゲームのモデルを用いて説明した。このような事象は、サハラ以南のアフリカや東欧において特に顕著に観察される。モデルの特徴は、「レピュテーション」と呼ばれるメディアのタイプに関する視聴者の信念を、メディアの政治家からの収賄に対する抑止力としているところである。主要な結論としては、(経験の浅い記者が多かったりすることによって)政治家に関する情報を収集する能力の低いメディアは賄賂やその他の便宜に屈しやすいことがわかった。このことから、途上国におけるジャーナリストへの教育や、マスメディアの資本投資には、これまで考えられてきた理由とは別の意味での正当性があることが分かる。 また、上記のマスメディアのモデルを、金融商品の格付け機関に関するものとして読み替えることもできる。このときに導かれる主要な結論は以下の通りである:金融商品があまりに複雑化し、格付け機関にもそのリスクが判断しづらくなったときには、格付け機関は甘い格付けをする可能性が高くなる。この理論は、リーマンショック前にサブプライムローンの証券化商品に甘い格付けが付与された事実と一致する。
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