研究概要 |
本研究の目的は, 児童が道徳授業で価値観をいかに理解するのかについて, 「勤労観」という価値観ならびに「アナロジー」という認知処理に着目して検討を行うことである。本年度は価値理解において重要な読み物資料に着目し以下の検討を行なった。第一に, 道徳授業内での資料の機能を検討した。小学校6年生の道徳授業内での発話データの分析から, 資料が児童の自己経験から理解されるターゲット, 及び児童の自己経験を捉え直すためのベースとして機能していたことが示された。一方で, 自己経験を捉え直すために児童が自力で資料をベースとして用いる姿はほとんど見られず, 道徳授業で重要となる自己経験の捉え直しは教師による質問等の支援が必要であると考えられた。第二に, 同一の読み物資料を読んだ子どもたちの中で, 解釈の多様性がいかに生まれていくのかについて検討をした。児童によって物語の終わり方の捉えに差異があった授業を対象に量的・質的分析を行った結果, その差異には登場人物の心情のピークに対する児童の捉え方が関係していることが示された。心情のピーク時における解釈をもとに, それ以降の物語に対してその解釈を支持する意味づけがなされていくため多様性が生まれると考えられた。第三に, 児童に勤労に関わる物語とその内容と類似したメタファー文を提示した際, そのメタファー文の持つ構造の違いによって物語から導出しやすくなる勤労観が異なるのかについて検討した。結果, メタファー文の内容に関わらず, 提示された児童は提示されなかった児童よりも社会貢献の側面から解釈を多く行なっていた。物語とメタファー文を児童が自分でいかに対応づけるかによって, 見出された構造が異なったと考えられる。以上から, 読み物資料の機能と児童の解釈過程, 勤労観解釈にメタファー文が与える影響の3点を通して, 道徳授業における児童の理解過程の解明と支援方法に対して示唆を得ることが出来た。
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