研究概要 |
〈研究の目的〉 本研究の目的は, この蝸牛遅延特性を活用し, 蝸牛から脳幹に至るまでの聴覚末梢系における情報処理メカニズムの全体像明らかにすることである. また, それらの結果を用いて検出の容易な警報音の開発を行うことで, 工場など重機が作動する際に発せられる警報音を, 音圧レベルを抑えたままでも検出可能な音に加工し, 労働者の難聴リスクを低減する. 〈本年度の研究成果〉 初年度の心理実験I【同時性の知覚精度推定】および心理実験Ia【同時性の知覚精度推定に対する日常的な聴取訓練の影響】の結果から, 聴覚システムは低音域の遅延に対してのみ同時性の知覚精度が低いことや, その高音域に対する遅延が約40msであったしても, 約10msの遅延との区別がつきにくいこと, 楽器演奏などに伴う日常的な注意深い聴取訓練が, 同時生判断の精度の向上を向上させることが明らかになった. これらの結果に対し, さらに詳細な検証を行うため, 同様の刺激を用いて聴性脳幹反応を計測した結果と, 聴覚末梢モデルを用いてシミュレートした結果を合わせて解析を行った. その結果, 楽器演奏などに伴う日常的な注意深い聴取訓練が, 同時性判断の精度を向上させることが明らかになった. また, このような知覚精度の向上は, 長期にわたる訓練によって生じる聴覚抹消系の可塑性の影響を受けている可能性が示された. さらに, 蝸牛遅延を補正することによって各周波数チャンネルからの神経発火信号の到来が同期し, 時間的な局在性が高くなる可能性が明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度10月末日に学振特別研究員を辞退したため, それまでの研究計画に対する達成度である. 現職に着任後も, 本課題に関する成果発表は行っており, 本成果をまとめたものを国際会議(Forum Acusticum 2014)で招待講演にて発表予定である. また, 本成果に対し(社)日本音響学会より, 粟屋潔学術奨励賞を授与された.
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