研究概要 |
1.前年度より見出していた、好中球のLTB4依存的細胞遊走に与える12-OH-17,18-EpETEの影響について詳細な解析を行った結果、本代謝物はnMオーダーの低容量で好中球の遊走を濃度依存的に阻害する事が明らかとなった。また本代謝物を処理した好中球は遊走時に進行方向へ正しく仮足を形成できず、進行方向と関係なく複数の仮足を形成する様子が観察された。この活性は、前年度までに見出したザイモサン腹膜炎で見られた抗炎症活性で見られた構造活性相関が認められ、本代謝物の標的細胞として好中球が考えられた。 2.この活性の作用メカニズムを明らかにするため、遊走、仮足形成に重要なアクチンの極性形成について解析を行った。通常LTB4処理で好中球は1つのleading edgeを形成するが、12-OH-17,18-EpETE処理好中球では複数のleading edgeを形成し、極性形成が正しく行われない様子が観察された。LTB4処理で好中球は本来一カ所にアクチン繊維の重合を起こし、1つのleading edgeを形成するが、12-OH-17,18-EpETE処理好中球では複数のleading edgeを形成し、極性形成に異常を来した。この活性もこれまでの活性評価にと相関する濃度依存性、構造特異性を有しており、本代謝物の作用メカニズムがアクチン重合に関するシグナルを介している可能性が示唆された。 3.東京大学大学院薬学系研究科有機反応化学教室、塩野義製薬産学連携講座との共同研究により12-OH-17,18-EpETEの全ての光学異性体について合成をした。これを用い、本代謝物の生体内における光学異性、および活性の立体特異性を検証した。生体内においては12位の水酸基がS体の異性体のみが検出された。また活性評価の結果、光学異性体のうち生体内で検出された異性体のみに活性が認められた。この結果は、本代謝物の活性が立体選択性を有しており,構造特異的に代謝物を認識する受容体を有する事を強く示唆するものである。また、本代謝物の活性異性体が生体内で立体選択的に産生されていることから、活性代謝物が生体内で酵素等により積極的に産生される事が示唆された。
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