研究実績の概要 |
機能的な神経回路網形成には、神経細胞の軸索と樹状突起が標的へ厳密に投射し、正しい結合相手と配線することが不可欠である。この過程において, 軸索と樹状突起は種々の細胞膜分子を介して周囲の情報を認識し、下流のシグナル経路に伝達することによって、 細胞骨格分子のリモデリングを行ない、正しい標的へと投射している。 しかしその分子機構は完全には解明されていない。本研究では神経形態形成の分子機構を明らかにするために、ショウジョウバエ嗅覚系投射神経をモデルに用いた。投射神経の樹状突起は触角葉に存在する約50個の糸球体のうち、単一の糸球体へと投射し、軸索は高次領域へと伸長し末端において特徴的な枝分かれをもっている。 遺伝学的手法を用いることによって、投射神経の形態を脳内において、単一細胞レベルで観察することが可能である。私は投射神経の形態形成に関わる分子を同定するために、候補となる遺伝子dachsousの変異体表現型解析を行った。そしてバックグラウンド変異としてチューブリン折りたたみ補因子D (Tubulin folding cofactor D (TBCD) )の変異を同定し、TBCDが投射神経の形態形成に必要であることを見出した。TBCDは5つのチューブリン折りたたみ補因子の一つであり、チューブリン二量体の形成に不可欠である。さらにTBCDと相互作用する分子として、ダウン症細胞接着分子(Dscam)を同定し、TBCDとDscamが遺伝的に相互作用することを見出した。TBCDの神経系での働きはこれまで知られておらず, この成果は国際学術雑誌Journal of Neuroscienceに掲載された。
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