研究概要 |
昨年度の研究により、繊毛虫テトラヒメナを扁平容器で対流形成させて培養した場合と振盪培養して対流形成させなかった場合で細胞形態が変化することがわかった。この細胞形態(前後の非対称性)の変化により、細胞にかかる重力依存性トルクが変化し、テトラヒメナの生物対流形成の原動力である負の重力走性の程度に差が出る可能性が考えられる。この仮説にもとづいて変動重力実験を行い、対流の重力応答を比較した。培養時に振盪して対流形成させなかったサンプルは我々の報告してきた従来の結果(Kage et al., 2011, Zool. Sci.)を再現し、微小重力・低重力下では生物対流パターンが消失した。一方、対流形成して培養した場合、微小重力・低重力下でパターンの波長が増大した。この結果は細胞形態によって細胞の重力応答が大きく変わることを示唆し、先行研究における生物対流の重力応答の矛盾(Noever, 1991, Phys. Rev. AとKage et al., 2011, Zool. Sci.)を説明できる可能性がある。 生物対流の生理的意義を解明するためには、個体遊泳と全体の流れ(生物対流)の結びつきを理解することも重要である。さらに、上記のテトラヒメナの実験は、細胞形態の変化により対流挙動に影響が出ることを示唆している。そこで単細胞緑藻クラミドモナスの鞭毛波形に着目し、運動変異体を用いた実験を行った。鞭毛波形が異常な変異体ida1は野生型と大きく異なる対流挙動を示した一方、鞭毛波形が正常で鞭毛打頻度が低い変異体oda2の対流挙動は定性的に野生型と大きな違いがなかった。どちらの変異体も遊泳速度は野生型より大きく遅いため、対流挙動の違いは遊泳速度では説明しにくいと考えられた。さらに、ida1は野生型より強い重力走性を示していることが示唆された。この結果を論文として報告予定である。
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