研究課題
特別研究員奨励費
本年度では、(1)社会性昆虫の巣仲間認識機構の遺伝学的解析、(2)細菌の宿主認識ならびに病原性発現機構の解明、および(3)昆虫をモデル動物として利用した新規抗生物質の発見、に取り組んだ。(1)社会性行動を解析するモデルとしてクロオオアリの巣仲間認識に着目した。アリでは、触角上の嗅覚受容体・神経系が巣仲間認識に重要と考えられている。そこで私は、クロオオアリのゲノムについて網羅的解析を行い、複数の化学受容因子を同定した。その各々は雌雄・カースト間で異なる発現パターンを示し、社会性行動への寄与が予想された。(2)宿主動物体内は試験管内とは異なり多様な環境であるため、細菌は宿主環境の違いに応じて病原性発現システムを使い分けると予想される。哺乳動物の肺を覆う分泌物(肺サーファクタント)を添加して培養した黄色ブドウ球菌において、選択的に発現上昇する遺伝子群が見出された。またこれら肺サーファクタント誘導性遺伝子が、マウス肺感染モデルでの黄色ブドウ球菌による宿主殺傷能に必要であることが判明した。これらの結果は、細菌が肺という特異な宿主環境に応答して病原性を発揮する仕組みを初めて示したものである。(3) 昆虫は哺乳動物と類似の薬物代謝機構を有し、飼育コストが低いことから、多数の個体を用いた医薬品のスクリーニングに適している。カイコ細菌感染モデルを利用して我々は、土壌細菌の培養上清から黄色ブドウ球菌感染に対して治療効果を示すものを探索した。一万以上の候補から、lysocin Eと命名した新規化合物が見出された。Lysocin Eは、細菌膜中のmenaquinoneに結合することにより膜破壊を誘導するという、新しい作用機序により強い殺菌作用を示し、感染動物に対して治療効果をもたらすことが示された。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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