研究概要 |
本研究では無性的な生活環を有するイネいもち病菌の遺伝的多様性および病原性変異が, 体細胞分裂期に生じるDNA二本鎖切断(DSBs)を起点とした修復過程(相同組換え)において生じるかどうかの検証を目的とした。これまで, いもち病菌ゲノムにおけるDSBs修復機構について有用な知見は得られていない。そこで, 相同組換えモニター系および希少制限酵素遺伝子I-Sce Iを用いて, いもち病菌ゲノムにおける人為的DSBsの導入とその修復機構の基礎研究をおこなった。相同遺伝子がゲノム内に散在しているいもち病菌系統においては, 活性酸素誘導剤等の薬剤ストレスおよびDSBsの導入により, 非交叉型の相同組換えが有意に誘導されることを見出した。同様に, 相同組換えに必要な相同領域の長さや遺伝子のコピー数等の諸条件についても明らかにした。一方で, 相同配列が存在しない系統においては, 主に遺伝子内部またはその遺伝子領域全般が高い割合で欠失するのに対して, 相同配列を有する系統においては欠失の割合の減少に伴い, 相同組換え頻度の割合が上昇することから, 体細胞相同組換えはゲノムの安定化に寄与していると同時に, 多様性の創出にも貢献していることが考えられた。 DSB修復と病原性変異との関連性を調査するために, 糸状菌用に改変した人工ヌクレアーゼZFNおよびTALENを構築した。ZFNはI-SceIの15%程度のヌクレアーゼ活性を示し, Scytalone dehydratase (SDH)遺伝子のターゲッティング効率を約50%程度まで上昇させたが, 強い細胞毒性が観察された。一方, TALENはI-SceIとほぼ同等のヌクレアーゼ活性を示し, SDH遺伝子ターゲッティング効率を100%まで上昇させた。以上より糸状菌用人工ヌクレアーゼの構築に成功し, 高効率遺伝子ターゲッティング法を確立した。さらに, 非病原性遺伝子を標的としたTALENによるDSB導入により, その修復過程でいもち病菌の病原性変異が生じることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
DNA二本鎖切断修復過程において生じる遺伝的変異は, 自然界で確認されているいもち病菌の遺伝的多様性と非常に類似していることを明らかにした。また, これらの知見をから任意のゲノム配列に二本鎖切断を導入することが可能な糸状菌用人工ヌクレアーゼZFNおよびTALENを構築した。TALENを用いることで, 内生の遺伝子への二本鎖切断導入が可能となり, 病原性変異とDSB修復の関連性を明らかにした。また, ヌクレアーゼ活性評価の過程で, 新たな遺伝子ターゲッティング法の開発に成功したことから, 当初の計画以上に進展したと評価した。
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