研究概要 |
本研究は,脳血流やシナプス活動の制御を担う,グリア細胞・アストロサイトにおけるカルシウムシグナルの空間的制御機構を解明することを目的とする.これまでに我々は,アストロサイトの突起と細胞体の間にmGluR分子の側方拡散による移動を妨げる拡散障壁があることを発見し,この拡散障壁がカルシウムシグナルの感受性を突起で高めていることを示した.拡散障壁を構成する具体的な分子機構を特定するために,今年度はまずmGluRと相互作用するタンパク質との相互作用領域の決定を目指した.mGluRのC末端細胞内領域を3つの領域に分け,それらを過剰発現したアストロサイトの中でmGluRが拡散障壁を越えて突起・細胞体間で移動するようになっているものを量子ドット1分子イメージングにより探索した.驚くべきことに,どの断片も単体ではmGluRの拡散障壁をかく乱できなかった.この結果は,拡散障壁の発現のためにmGluRと相互作用する分子は複数必要であることを意味している.また,細胞骨格セプチンがmGluR拡散障壁の構成要素かどうかを検討する目的で,アストロサイトをセプチンの阻害剤forchlorfenuron(FCF)で処理する実験を行った.免疫染色法により調べたところ,先行研究とは異なりアストロサイトではFCFはセプチン骨格を破壊しなかったことから,FCF処理したアストロサイトでmGluRの拡散障壁の機能不全をみることはできないことがわかった.その一方で,アストロサイトの一種である小脳バーグマングリア細胞のカルシウムシグナルの詳細な解析により,新しい知見を得た.ノックアウト動物を用いた実験から,バーグマングリアではIP_3受容体タイプ2が主要なカルシウムシグナルの担い手であるが,突起ではタイプ1,3も速やかなカルシウム上昇に寄与していることを発見した(Tamamushi et al. 2012).
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今後の研究の推進方策 |
mGluR拡散障壁の発現に関わる相互作用タンパク質の同定には,C末端3つの断片を2つずつ組み合わせて過剰発現させる実験を行う.また,相互作用がわかっているHomerタンパク質をタンデムにつなぎ分子量を増したものを過剰発現させることにより,物理的なタンパク質立体障害が拡散障壁の原因である可能性を調べる. セプチン骨格が拡散障壁の発現に関与する可能性については,siRNAによるノックダウン法で検討する.また,アストロサイト特異的に発現していると言われるセプチン9のノックアウト動物の使用も考慮する.
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