本研究では、バベシア原虫の新規治療薬の標的分子として、プリン代謝系の律速酵素として推定されるイノシン-リン酸デヒドロゲナーゼ(IMPDH)の解析を行い、次のような結果が得られた。 イヌバベシア原虫Babesia gibsoniのイノシン-リン酸デヒドロゲナーゼ(BgIMPDH)の遺伝子を同定し、組換えタンパク質を作製した。組換えBgIMPDHは酵素活性を有し、その活性はイノシン-リン酸デヒドロゲナーゼのインヒビターとして知られるマイコフェノール酸によって特異的に抑制された。また、Babesia gibsoniの試験管内における増殖もマイコフェノール酸により抑制された。これらの結果により、BgIMPDHはイヌバベシア原虫のプリン代謝を司る酵素であり、新規薬剤標的となりうることが示唆された。 次に、BgIMPDHを標的とする4種類の化合物(ミコフェノール酸モフェチル・ミゾリビン・リバビリン・7-ニトロインドール)の抗バベシア原虫作用を比較検討した。これらの化合物はいずれも組換えBgIMPDHの酵素活性を特異的に抑制し、また原虫の増殖も有意に抑えた。その中でも特にミコフェノール酸モフェチルの抗原虫作用が顕著であった。これらの結果により、BgIMPDHを標的とした化合物の抗イヌバベシア原虫治療薬としての可能性が示唆された。
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