研究概要 |
ヒトやサルなど高度に認知機能が発達した動物は、環境とのコミュニケーションによって意義情報を抽出し、変化する環境に柔軟に適応することが出来る。未知の問題に直面した際、我々は試行錯誤を行うことにより問題解決に必要な知識を探し出す(試行錯誤による探索方略)。一方で、一旦知識を獲得すれば、同種の問題に対しては知識に基づいた素早く的確な処理が可能になる(知識に基づく探索方略)。従うべきルールが変化する環境においては、これら二種類の探索方略を柔軟に使い分けることが必要となる。このような柔軟な探索方略の転換に関わる前頭前野外側部の役割について調べるため、サルにルールの変更を伴う視覚探索課題を課し、当該領野より単一神経細胞活動記録実験を行った。行動データより、サルはフィードバックに基づき適切に探索方略を使い分けたことが示された(Fujimoto et al., Rob Allton Syst. 2012)。前頭前野背外側部の神経活動を記録したところ、使用する探索方略を表現する神経活動、自身の眼球運動の正確さを表現する神経活動、予想外の結果に対し反応する神経活動、の3種類の情報を表現する神経細胞群が、同一領野内で記録された。前頭前野外側部全体の情報表現の推移を観察するため、同領野内で記録された71個の神経細胞群においてこれら3種類の神経活動が有意に変化する時間を解析したところ、選択刺激呈示前の遅延期間には使用する探索方略を表現する細胞数が増加し、反応と同時に眼球運動の正確さを表現する細胞数が増加、そしてフィードバック呈示直後に予想外の結果に対する反応を起こす細胞数が増加し、これが次試行に於ける適切な方略の転換に関わっていることが示された。これらの結果から、変化する環境に於ける柔軟な方略転換に関わる前頭前野の神経メカニズムが明らかとなった。
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