研究概要 |
本研究は造血幹細胞をターゲットとしたHIV感染症の遺伝子治療を目的とする。具体的には、HIVのCCR5コレセプターに対する細胞内抗体遺伝子を造血幹細胞に導入し移植することにより、幹細胞由来のすべての血液細胞内で抗原抗体反応がおこり、CCR5が細胞表面に発現されないためHIVの感染増殖が阻害されることを期待するものである。すでに米国の共同研究者が、抗CCR5細胞内抗体をCCR5陽性T細胞株(PM1)に発現させることによりin vitroでHIVの増殖を阻害することに成功している。一方、近年まで造血幹細胞への遺伝子導入は非常に困難であったが、レンチウイルスベクターの開発により造血幹細胞をターゲットとした遺伝子治療が現実的なものとなってきている。そこで、臨床応用に向けてベクターの安全性を高めるため、パッケージングコンストラクトからtat, vif, vpr, vpu, nef遺伝子を除き、ベクターのLTRプロモーター活性をなくした第3世代ベクターを作製した。このベクターは、ヒト造血幹細胞にサイトカインによる増殖刺激なしで、これまでのベクターと同等以上に高い効率で遺伝子導入できることがNOD/SCID免疫不全マウスを用いたin vivoの系で確認された。 さらに第3世代ベクターは、ヒトよりもはるかに純度の高いマウス造血幹細胞にも高い効率で遺伝子導入できること、WPRE(woodchuck hepatitis virus posttranscriptionol regulatory element)を挿入したベクターでは発現レベルが飛躍的に上昇すること、cPPT(central polypurine tract)sequenceを挿入することにより導入効率が上がることがわかった。また、CMV,PGK, EF-1α各プロモーターを比較検討した結果、EF-1αが最もすぐれていることが判明した。現在、抗CCR5細胞内抗体遺伝子を組み込んだ第3世代レンチウイルスベクターを作製し、臨床応用の前段階としてサルを用いたin vivoでの抗HIV効果を検討中である。
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