研究概要 |
アコヤガイ斃死原因物質の解明を目的として研究を展開し,以下のことを明らかとした. 病貝抽出物から,赤化原因色素アロキサンチンと6種のコレステロール類縁化合物を単離し,これらが病気の結果として蓄積されることを確認した.また病貝抽出物には血球崩壊を誘発する活性と,稚貝に対する致死活性が確認された.そこで,まず病貝由来の血球崩壊活性と稚貝致死活性を示す物質の探索を中心に進めた.活性を指標として分離を進め,NMRスペクトルを測定したところ,活性を示す物質は酸素官能基を有する不飽和脂肪酸類縁体の混合物であると推定された.この活性画分は分解が早く測定には困難を要した. 先に述べたように,血球崩壊活性および殺稚貝活性の確認された画分には不飽和脂肪酸および,酸素化された脂肪酸と推定される物質が確認された.さらに病貝では血管周辺の細胞での損傷を観察している.このことより,病貝の症状としてラジカルによる損傷の機構が推定された.そこで,一連の過程において発生するマロンジアルデヒド(MDA)を簡便なチオバルビツール酸(TBA)法を用いて観察した.健康貝と病貝の抽出物について比較を行なったところ,病貝にのみMDA活性が確認された.さらに分離を進めた結果,MDA活性画分は先の稚貝致死活性,血球崩壊活性画分と一致していることを確認した.このことより,アコヤガイの大量死に大きく関わる物質として,自己防御の結果として発生する過酸化脂質の存在が強く推察された.また,このことは活性画分の分解が早いこととも一致している. また,今回の研究においてこの病気から回復した貝が確認された.この貝は,愛媛県水産試験場と愛媛県内海村海洋資源センターにおい耐性貝として養殖され,現在でもその多くが生き残っている. 以上の結果について,2003年3月に日本化学会春季年会において発表する.
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