研究概要 |
古くより2-エチニル安息香酸誘導体から,様々な条件下でイソクマリンとフタリドへの環化反応が進行する事が知られていたが,両者を選択的に作り分けることはこれまで報告例がない.また,反応の位置選択性に関しても系統的な研究は少なく,閉環反応の予測に用いられて来たBaldwin則でもこの反応に関しては説明ができない.そこで単一の基質からイソクマリンとフタリドを作り分ける選択的な合成の開発を目指して研究を行った. 基質として2-phenylethynylbenzoic acidを選び,種々の条件下で環化反応を検討した.その結果,トリフルオロメタンスルホン酸のような強酸を溶媒として用いた場合には,室温で速やかに閉環反応が進行し,選択的にイソクマリンを与えるが,弱酸である酢酸を用いた場合には反応が全く進行しない事が明らかになった.一方,ピリジンやトリエチルアミンのような弱塩基性の溶媒中では選択性が全く逆転し,フタリドが好収率で得られる事が分かった.さらに,本反応は触媒量の酸,あるいは塩基の存在でも進行する事が明らかになり,1mol%のトリフルオロメタンスルホン酸の存在下では,定量的な収率かつ97:3以上の選択性でイソクマリンが得られ,一方,0.5mol%のジメチルアミノピリジンの存在下でもほぼ定量的に98:2の選択性でフタリドが得られた.しかし,アセチレン上の置換基をアルキル基にした場合には,酸・塩基共に5員環閉環体のみを与え,選択的な作り分けに関しては,現在までのところ成功していない. 続いて,本反応の芳香環の役割を明らかにするために,(Z)-5-phenyl-2-penten-4-ynoic acidを基質として反応を試みた.その結果,この場合においても酸と塩基を使い分ける事により,6員環と5員環を選択的に作り分けることに成功した.
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