研究概要 |
昨年度までに、低原子価ルテニウム錯体と2,6-ジメチルベンゼンチオールの反応により、S-H結合およびo-Meのsp3 C-H結合の連続的切断反応により、チアルテナサイクル錯体Ru[SC_6H_3(2-CH_2)(6-Me)](PMe_3)_4、の生成することや、これを触媒とした2,6-ジメチルベンゼンチオールのSHならびにo-Meの水素の触媒的重水素化が進行することを明らかにしている。 本年度は、チアルテナサイクル錯体Ru[SC_6H_3(2-CH_2)(6-Me)](PMe_3)_4(1)中のRu-C結合への不飽和化合物の挿入反応による官能基化について検討した。錯体1と1気圧のCOをトルエン中、50℃で50時間反応させたところ、Ru-C結合にCOが挿入した新規アシル錯体mer-Ru[SC_6H_3(2-CH_2CO)(6-Me)](PMe_3)_3(CO)が78%の収率で得られた。また、錯体1と5当量の^tBuNCをトルエン中、100℃で7時間反応させたところ、Ru-C結合に^tBuNCが挿入した後、メチレンの水素が窒素原子上に1,3-シフトしたと考えられる新規エナミン錯体cis, trans, cis-Ru[SC_6H_3(2-CH=CNH^tBu)(6-Me)](PMe_3)_2(CN^tBu)_2(3)が42%の収率で得られた。この挿入反応の機構を明らかにするために、錯体1とCOとの反応をNMRによって追跡した。錯体1の重ベンゼン溶液に1気圧のCOを導入すると、互いにトランス位にあるホスフィン配位子の一方がCOに置換された錯体4と錯体1の間に速い平衡が観測されるとともに、S原子のトランス位がCOに置換された錯体5も徐々に生成した。さらに反応を続けると、全ての錯体が錯体5に転化し、その後ゆっくりと錯体2が生成した。これらの結果から、Ru-C結合への挿入反応が逐次的に進行していることが分かった。
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