研究概要 |
本研究では,基質の光吸収特性に依存しない可視光を利用する還元的分子変換法の開発を目標とした。具体的方針として,1)可視光吸収光増感剤と1,3-ジメチル-2-フェニルベンズイミダゾリン(DMPBI)の複合系の利用,2)可視光吸収DMPBI類縁体の利用,を考えた。そして,1,6-ビスジメチルアミノピレン(BDMAP)とDMPBIの系が,ケトンのアルコールへの還元やピナコールカップリングおよびエポキシケトンのアルドールへの変換に有効であることが明かとなった。また,DMPBIの2位のフェニル基上の置換基の違いにより反応効率に顕著な差がみられた。例えばイソホロンエポキシドの反応では,メトキシ置換DMPBIの場合はアルドールの収率は80%程度であったのに対して,クロロ置換DMPBIの場合は基質の変換率とアルドールの収率ともに顕著に低かった。次いで,可視部に光吸収を有する2-アントリル体(DMABI)を用いる光還元反応を検討したところ,光増感反応に比べて基質の適用範囲の点で問題が見られた。またDMABIの光励起状態の調査(発光スペクトル,EPRスペクトル)から,励起エネルギーはアントラセン部位に非局在化していること,DMABIの蛍光強度がその酸化体に比べ顕著に弱いという事実を発見した。この現象はベンズイミダゾリン部位による2位のアントラセン環の励起一重項状態の分子内電子移動消光過程(励起エネルギー消費過程)の存在を示唆しており,還元剤として利用する場合の問題点を示している。 以上の点から,DMPBIの分子修飾による長波長化よりも,増感剤のさらなる検討および増感剤と協同するDMPBI類縁体の新規開発を今後の研究方針としたい。
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